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Myasthenia Gravis
一般社団法人   全国筋無力症友の会 大阪支部  

医療講演 lecture

 第49回大阪支部総会 医療講演  2019年5月18日

         「重症筋無力症の最近の話題」
                    


                           国立病院機構 大阪刀根山医療センター
                           神経内科部長 豊岡 圭子先生

 皆さんこんにちは。大阪刀根山医療センター脳神経内科の豊岡といいます。
 最初にみなさんに謝らないといけないのですが、私の勘違いでUSBだけ用意すれば大丈夫と思っていまして、パソコンを持参するのを忘れてしまいました。支部長さんはじめ今、いまパソコンを探して下さっているのですが、本当に申し訳ありませんが、ここに大写しということができません。ただ、一つ良かったと思うのは、プリントをしてきたことでございます。字が小さくて読みにくいかもしれないですが、なるべくゆっくりと大きな声でしゃべりたいと思いますので、よろしくお願いします。
 はじめにちょっとだけお時間をいただきまして、大阪刀根山医療センターのことをご紹介させてください。と言いますのは、ご存じない方も沢山おられると思うのです。最近名前も変わりまして、3月までは刀根山病院と言っていました。でもどこにあるのかもわからないものですから大阪刀根山医療センターというふうに名前を変えさせてもらいました。
 今まで、皆さんもいろんな病院の神経内科というところに通われていると思います。そちらも日本神経学会の方から、神経内科というのは内容が分かりにくいということで、脳神経内科にするよう指示があり変更しました。皆さん、脳神経外科はイメージがわきますよね。腫瘍を切除するとか、血管が詰まったらそれを治してくれるのかなと思われると思いますので、手術をしないで内科的に治す脳神経内科というふうに、脳神経外科に対して脳神経内科ということになりました。
 大阪刀根山医療センターがどこにあるかといいますと、阪急蛍池駅もしくは大阪モノレールの蛍池下車、徒歩5分です。北摂の方になります。伊丹空港も非常に近くです。駅から歩いて5分ですけれど、坂道がありまして、その坂を歩いて上ってこられる方は比較的まあ足腰が丈夫なのかなと思えます。
 このプリントは1枚あたり六つのスライド分が印刷されています。スライドは順に上から横に並んでいます。横にいって、左下に下りていってという順番です。これが大阪刀根山医療センターの写真です。昔は国立療養所と言われていましたので、本当になんと言いますか、想像を絶するような古い病院でしたが、新病棟ができました。この写真に写っているのは、A病棟といいまして、1階から6階まであります。この3階に神経難病の患者さんがおられる病棟があります。5階も神経内科の病棟でして、パーキンソン病の専門病棟です。
 このようにパーキンソン病の方だけ入院できるような専門病棟もありますので、いろんな病院から当院に患者さんを紹介してこられます。せっかくだからちょっと入院してリハビリしながらお薬調整しましょうかということも可能です。また筋萎縮性側索硬化症は、運動神経細胞がやられてだんだん呑み込んだり、足を動かしたり呼吸したりというのが難しくなってくる、本当に難病中の難病ですが、その患者さんも沢山おられます。
 病院だけで難病の患者さんを診ていくのは無理なので、絶対必要な往診の先生、訪問看護師さん等と連携して、在宅を基本として入院と在宅でうまいことバランスをとりながら経過をみています。
 たぶん、今までこの会でお話しされた先生というのは、神経免疫がご専門の先生だったと思います。そういう意味では私では力不足かなと思うのですけれども、なるべく分かり易くお話しさせてもらいたいと思います。
 また、私たちの病院では少し前に、胸腺と胸腺腫がご専門の奥村明之進先生、非常に有名な先生ですね、胸腺腫とか過形成の胸腺を手術する日本で1番有名な先生が病院長になられたこともありまして、今後阪大との連携も保ちつつ、重症筋無力症の患者さんもこれからだんだん増えてくるかなと思っています。
 本日のお話に移らせていただきます。みなさんは今までにいろんな先生のお話を何回も聞いておられると思うのですけれども、私も順番にお話しさせてもらいます。
 重症筋無力症、MGと略されますけれども、その疫学、症状、診断、一般的な治療のこと。そして去年の全国大会では高橋先生が話されたと思うのですが、比較的新しいお薬、補体阻害薬のことについてもお話ししたいと思います。あと、宮下支部長さんからご依頼いただきました、アセチルコリン受容体抗体陽性以外のMGについても触れさせていただきます。最近新しいタイプのMGもでてきておりますので、最後はそのお話もさせていただきたいと思います。
 まずは疫学の話です。MGの患者さんの総数というのは増えてきています。たとえば人口10万人あたりの有病率は2006年頃には12人ぐらいでした。最新の報告では2018年には10万人あたり23人ということで、有病率は増えてきています。我が国の患者さんの数から言いましても、2006年に1万5千人ぐらいだったのが、2013年にはだいたい2万人、2018年には2万9千人と増えてきています。もちろん平均寿命も延びておりますし、そのへんの関係もあるのでしょうが、特に50歳以上の後期発症の患者さんが増えてきている特徴があります。
 MGの症状ですが、筋肉の収縮を続けると筋力が弱くなって 休むことによって回復します。たとえばドライヤーで髪の毛を乾かすのって、腕を上にずっと上げておく必要があり、途中から腕がだるくなります。でも、腕を下げてしばらくするとまた力が戻ってくるというふうに、休息によってある程度の回復があるのも特徴です。
 その次に、症状の日内変動があります。一日で朝は割とましだけど夕方になって疲れがたまってきたらしんどくなる。また一日の中だけじゃなくて、日によって今日はなんか調子いいなとか、日によっても調子の波があります。
 やはり1番多いのは眼の症状です。眼瞼下垂と書いていますが、まぶたが垂れてきます。また目の動きが悪くなるので、左右で眼の動きが違いますから、二重に見えることもあります。複視という症状です。
 あと、首や手足の力が弱くなります。また、ここに球症状って書いていますね。呑み込みにくいとか、しゃべりにくいなどの症状です。また顔面の力も弱くなってきます。しっかり目を閉じられないとか、口からこぼれてくるとかです。呼吸困難で初発する方は少ないです。ですから、呑み込みやしゃべるのが少し調子悪くて、何となく息も苦しいなどが主な症状の場合には、時には診断が難しくなって遅れる場合もあります。
 私たちが、たとえば左の手を動かそうと思った時は、右脳のちょうどこのあたりに運動野というのがありまして、ここの神経の細胞が左の手を動かせと命令を出します。そこからずーっと下がって脊髄まで伝わってきます。その情報を受け取った別の運動神経細胞から末梢神経を通って筋肉まで行きます。MGでは神経の最後と筋肉をつなぐ神経筋接合部というところに不具合が起こってきます。模式図ですが、末梢神経の最後のところまで電気で刺激が来ます。最後の方になりますとアセチルコリンという神経と筋肉の間をつなぐ物質がそこから出てきます。それを筋肉の側にあるアセチルコリン受容体というのがここに待機していまして、そこにそれがパカッとくっつきますと、受容体に穴があくような形、いわゆるゲートのようになります。そのゲートを通して、外からナトリウムイオンというのが入ってきて、最終的に筋肉が収縮します。MGの方の場合には抗体というものができまして、本来こちらにある受容体にアセチルコリンがくっつきたいのですけれども、先に抗体がくっつくことによってアセチルコリンがくっつけないということになると、今までせっかく伝わってきた情報が筋肉の方に行きません。結果、うまく力が入らないということになります。
 診断ですが、まずは、疲れやすいということ、易疲労性、あと日内変動もよくみられます。そしてこれが大事ですが、血液の検査をすることによって抗体を調べることができます。アセチルコリン受容体抗体は、だいたい80~85%ぐらいの方で陽性です。ただ、眼だけしか症状がない方の場合には陽性率は低めで、だいたい半分ぐらいです。もう1つここに記載しています、MuSK抗体、つまり筋特異的受容体型チロシンキナーゼ抗体が陽性の方も5~10%おられます。
神経筋接合部の異常を反映する検査があります。一つ目は眼瞼の易疲労性試験です。1分間ぐらいしっかりと上を見ていても、普通の人はそんなにまぶたは落ちてきません。途中で疲れてまぶたが下がってくる方が陽性です。
 二つ目がアイスパック試験。アイスパックをそのまま当てると冷たくてびっくりしますから、ガーゼか何かでくるんでまぶたに当てます。3分くらい当てておいて、下がっていたまぶたが持ち上がれば陽性です。
 三つ目が、私たちもよく施行するテンシロン試験です。テンシロンという注射をすることによって、たとえば下がっていたまぶたが持ち上がるとか、力が入りやすくなるとか、を調べます。症状が改善すれば陽性です。
 四つ目が反復刺激試験陽性です。これは痛みを伴う検査です。たとえば手ですと、手の方に行く神経を連続刺激して手の筋肉から電気活動を得るのですが、疲れやすいという症状を反映して、1発目と5発目の刺激による振幅を比べます。MGの方では5発目の振幅が最初に比べて10%以上低下している場合には陽性と判断します。
 五つ目については、私たちのところでも一般的に施行しておりませんので省かせてもらいます。
 MGの症状を評価する二つの方法があります。一つはMG-ADLスケールといいまして、患者さんの自己申告で評価できます。たとえば、呑み込んだ時にたまにむせるが1点、何回もむせるために普通の食事は難しいので呑み込みやすいものに変更する必要ありが2点、飲み込めないので管を通しての注入が必要なら3点とか、程度により全く正常の0点から重症の3点まで八つの項目について全てを足し合わせます。0点の方は正常、24点の方が最重症ということになります。
 次がQMGスコアです。たぶん皆さんも入院中や外来時に評価されたことがあると思います。これは自己申告ではなくてもっと客観的なものです。いろんな検査をしてそれぞれ0点から3点にまでに評価して合計は一番点数の良い0点から最重症の39点になります。この特徴といいますのは、必ずしも病気でない人が0点ではないということです。たとえば、私は握力に自信がありません。女の方で握力がたとえば私のように20kgぐらいしかない場合は1点になります。右左で2点です。また腹筋も弱いので、片足ずつだったらどうにか45度で100秒キープできそうですが、寝たまま頭を45度持ち上げて2分間維持するのは難しいです。そうなるともう3点です。必ずしも普通に生活している人が0点とは限りませんが、同一人物の経過を追っていくのに役立ちます。疲れた、しんどい、力が入らないと、患者さんが言っておられても、この検査をすることによって点数がそんなに変わってなければ、あまり症状が悪化していないと判断することができます。
 その他の検査です。MGでは胸腺の過形成とか合併することが多いのですけれども、やはりCT検査の一番大きな目的は、胸腺腫という腫瘍の合併がないかをみることです。これはちょうど胸の真ん中あたりの輪切り像です。下が背中で上が胸です。ちょうど心臓のもう少し上の方です。心臓から出た大動脈がこのへんにありまして、その前に大きな胸腺腫があるということを示しています。
 また、他の自己免疫疾患を合併される方も多いです。バセドウ病とか橋本病などの甲状腺の病気がないか、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群などの合併がないかということも、症状や採血で抗体を調べてチェックします。
 成人の方のMGの病型分類としましては、1.眼筋型、2.アセチルコリン受容体抗体陽性で胸腺腫がない、しかも全身型の方で50歳未満、3.同じ条件ですが50歳以上。この2.と3.は、早期発症、後期発症と言って分けていることが多いです。4.胸腺腫関連のMG、5.筋特異的受容体型チロシンキナーゼ抗体陽性、6.この二つの抗体がどちらも検出されない、というふうに大きく分かれます。
 治療の目標です。理想的には“完全寛解”。1年以上全く症状がなく、治療も受けていない状態です。次が“薬理学的寛解”。治療はしていますが、1年以上症状がない状態です。もしくは、三つ目の“軽微症状”。症状はあるのですが、日常生活は問題なく送れています。できればここまで以上を目指したいというのが理想です。しかも、ステロイドの量が一日5㎎以下を目指すということになっています。ただステロイド量を減らせないというなかなか難しい現状もあります。坑コリンエステラーゼ薬を内服されている方というのは、たとえ症状が全然なかったとしても、軽微症状のところに入れるということになっています。治療が長期にわたることを意識して、生活の質やメンタルヘルスを良好に保つことが大切です。
 これからは治療の話です。まず一つ目、胸腺摘除術です。MG患者さんの2割から3割ぐらいに胸腺腫が合併します。胸腺腫は腫瘍ですから、原則胸腺腫が合併の時には拡大胸腺摘出術をします。絶対適用です。ただ、全身型で胸腺腫がない場合は、一般的に早期発症の方のMGでは、軽症例以外は適用を検討します。それに比べ後期発症、50歳以上発症の方の場合は、胸腺が萎縮していることが多いので、手術は適応にならないことが多いです。ただ胸腺過形成が疑われる症例の場合は手術も考慮されることがあります。眼筋型またはアセチルコリン受容体抗体が陰性のMGは一般的に手術の適応はありません。
 1番大事なことは、手術の前にできるだけ症状を良くしておくということです。悪いのを無理して手術にもっていった場合には後で、皆さんご存じのクリーゼをきたすことがあります。急に病態が悪くなって呑み込みができなくなったり、呼吸が難しくなったりして、ICUに入って集中治療をしないといけない場合も起こりえますので、なるべく良い状態にコントロールすることが必要です。
 胸腺摘除術が本当にこれは有効かどうかということについては、今までにもいくつか良いらしいという報告はあったのですが、胸腺の手術を追加した方とステロイドだけで治療した方を比較してきちんと研究した論文が2016年にNEJMという雑誌に発表されました。非常に手間のかかる、しかも長い時間をかけた貴重な研究です。MGTX studyという、多施設、国際、単盲検、無作為臨床試験です。ステロイド治療群と、胸腺摘除術とステロイド治療を受けた群の合計126人の患者さんを対象としています。本人は手術したかどうか分かっているけれども、胸の傷が見えないよう工夫していますから、症状を判断する医師にはわかりません。客観的に症状の経過を3年間フォローしていくわけです。
 結果です。これはQMGスコアといいまして、さきほどの0~39点で、私でも3点になってしまうものです。ステロイド群では、最初平均12点でしたが、3年たって9点に下がりました。胸腺摘除術とステロイド群では最初平均12点から6.2点に下がり、約3点の差がみられました。
 また、最終的なステロイド使用量では、ステロイド群の平均は隔日54㎎でしたが、胸腺摘出術とステロイド治療群では隔日32㎎と、22㎎の差がみられました。以上より、胸腺摘除術の有効性が初めて示されました。
 次が内科的な治療の話です。坑コリンエステラーゼ薬、副腎皮質ステロイド薬、免疫抑制剤(カルシニューリン阻害薬)、免疫グロブリン大量静注療法、血液浄化療法(血漿交換)、新しい治療薬としてエクリズマブがありますが、それぞれは病態に応じてちゃんと使い分けされています。
血液の細胞成分は原則骨髄で作られますが、骨髄から末梢血中に出てきたT細胞リンパ球は胸腺に取り込まれて教育を受けます。胸腺の中をめぐる間に様々な体内に存在する蛋白質と出会い、その結果自己と非自己を識別することができるようになるまで教育を受ける必要があります。それが不十分な場合には、間違って自己を非自己と認識して攻撃してしまうことになります。正常な状態では、私たちは、外から入ってきた細菌とかウイルスなど身体に害をおよぼす病原体を、敵とみなして攻撃する反応が出ます。これが免疫です。しかし自分の細胞に対して攻撃をしかけるようでは困ります。教育が不十分で、自己反応性T細胞ができてしまいますと、それによりB細胞や形質細胞が活性化されて、自分を攻撃するアセチルコリン受容体抗体や他の自己抗体が産生されます。これらの発症の機序(しくみ)に即して、治療方法や治療薬があるのです。
 まず、抗コリンエステラーゼ薬です。これは神経の終末から放出されるアセチルコリンの分解を抑制して、シナプスの間にあるアセチルコリンの濃度を高めることによって筋収縮力を増強するお薬です。メスチノンとかマイテラーゼがそうです。メスチノンの方が3-4時間と作用時間は短く、マイテラーゼの方が5-8時間と長く効きます。さきほどお話ししましたテンシロンテストという、MGかどうかということをチェックする時に使用するテンシロンは、同じ作用のお薬ですが、数分で効果はなくなります。診断目的にしか使用されません。この抗コリンエステラーゼ薬の副作用には、腹痛、下痢、唾液が多くなる、汗をかくなどがあります。また、循環器系の方にも影響が出て、脈が遅くなる、不整脈が出やすくなるとか、血圧が下がるという副作用があります。また、筋肉がピクピクする、痙攣するなどの副作用もあります。
 また過量の場合にはコリン作動性のクリーゼに注意が必要です。ただ、この抗コリンエステラーゼ阻害薬といいますのは、比較的早い時間に効いてくれますが、免疫をどうこうしようという根本治療ではなくて、あくまでも対症療法なので、症状が安定したら最低限で維持するとか、減らす方向に持っていきます。
 次に副腎皮質ステロイド薬。免疫抑制作用があるので、根本治療になります。ただ、ステロイドを始める時に、最初から大量で開始しますと一過性に症状がグッと悪くなる場合(初期増悪)もありますので、注意する必要があります。少なめから始めることが必要です。
 長期の内服、また高用量の内服になり、副作用が出やすくなります。良く効く薬ですが、免疫を抑えますから外から来た悪さする細菌とかに対する抵抗力は当然落ち、感染が起こる可能性があります。また潰瘍ができたり、糖尿病を起こしたり血圧が上がったり、コレステロール値が上がったりすることもあります。また骨がスカスカになる骨粗鬆症をきたしたり、足の付け根の骨が壊死を起こしたりすることもあります。また、うつ症状になったり、時には気分があまりにもハイになるとか、そんなこともあります。眼に関しても白内障、緑内障(眼圧が上がる)が起こりえます。ステロイドを沢山飲みますと顔が丸くなったり、肩のあたりに脂肪がついたりすることが多いです。
 ステロイドは点滴も可能です。パルス療法と言いますが、飲み薬だけに比べてある程度即効性が期待でき、またステロイドの使用期間を減らしたり、減量を早めたりする作用もあります。一般的にはメチルプレドニゾロンを一日1000mg、これを3日間点滴するのですが、やはり初期増悪には注意が必要です。最初、内服で5㎎とか10㎎、15㎎、時には20㎎までやってみて、まあ大丈夫そうということを確認して、実際1000㎎の半分、ハーフパルスというのですが、500㎎を使用することもあります。
 次が免疫抑制剤です。カルシニューリン阻害薬です。繰り返しになりますけれども、免疫というのは自己と非自己を認識して非自己だけを攻撃、排除するシステムのことです。この免疫抑制剤の作用はT細胞の活性を抑制します。筋力の改善やステロイドを減量する効果が期待できます。このお薬は発症してから早い目に飲むと効果があると言われていますので、なるべく早く開始するという方向になっています。日本で使えるものとしては、タクロリムス、商品名はプログラフです。それとシクロスポリン、商品名はネオーラルです。タクロリムスは胸腺摘除術の有無は問いませんが、一日に3㎎夕食後に使います。シクロスポリンは全身型のMG、胸腺摘除後の治療において、ステロイド薬の効果が不十分とか、その副作用のため飲めないとか、そんな場合に体重あたり3㎎ぐらいを一日2回に分けて開始するのが安全といわれています。
 ただ、免疫抑制剤も副作用があります。当然、両方とも感染症の副作用はあります。タクロリムスの方は比較的使用しやすいのですが、耐糖能異常、ちょっと糖尿病の気が出てきてしまうとか、白血球が増える、筋肉が痙攣する、また消化器症状が出ることがあります。シクロスポリンでは血圧が上がるとか、腎機能が悪くなるとか、歯肉が肥厚してくる、毛が濃くなるなどの副作用があります。シクロスポリンは副作用予防のためにも、血中濃度のモニターが必要です。内服してから12時間後の次の薬を飲む前の、1番血中濃度が低い頃に測定します。200ナノグラム/㎖未満、長期的にはできれば100ナノグラム/㎖未満が理想です。グレープフルーツはカルシニューリン阻害薬の作用を増強するといわれています。
 次が免疫グロブリン静注療法です。これは神経筋接合部のシナプス後膜における自己抗体との競合や補体のカスケードを抑制すると言われています。ただ、本当にいろんな作用があるようで、本当の機序というのは未だに完全に解明されているわけではありません。中等度あるいは重度のMGの方に有効です。血液浄化療法と同じぐらいの効果があります。
一日あたり、体重あたり0.4㎎と計算し、5日間静脈内投与します。点滴ですから、血液浄化療法のような特別な装置を必要とせず、ご高齢の方や血圧が不安定な方にも使用しやすいです。
 副作用としては頭痛、発熱、ちょっと血圧が上がる、寒気がする、吐き気がするとか、数%程度みられますが一過性のことが多いです。ただ初回投与はまれにショックを起こすリスクがありますので、最初投与する時には看護師さんが横について状態をチェックしながら投与するということになります。またこの免疫グロブリンというのはかなり濃度が濃いので、血液が血管の中で固まりやすくなります。投与速度の上限などが決まっていますので調整が必要ですし、先に点滴して薄めながら投与したりなどの工夫をしています。症状が急に悪くなった時に使うのですが、それ以外にも胸腺摘除術の前にある程度いい状態にもっていくために使用する場合もあります。早い人は1週間ぐらいで効果が出ますが、2週間ぐらいかかることもあります。
 次が血液浄化療法です。これは血液中にあるアセチルコリン受容体抗体とかMuSK抗体そのものを取り除きます。症状をある程度急いで良くしたい時に使います。ただ、抗体はまた供給されてきますので、いつまでも良い状態を保つことはできません。これは透析と同じような大きな器械、装置が必要ですので、対応できる施設は限られています。太い静脈にカテーテルを挿入して血液を引き出してきて、血液の中でも血球成分と血漿成分に分けて、血球のほうの成分はそのまま返しますが、血漿の中にはいろんな抗体が含まれていますので、それを正常な人の血漿あるいはアルブミンに置換して元に戻しますが、それが1番単純な血漿交換です。また血漿の中から免疫グロブリンなどだけを取り除くような二重膜濾過という方法もありますし、血漿の中でその抗体を別のものに吸着させてそれ以外を戻す免疫吸着という方法もあります。
 合併症としては、血圧が下がる、じん麻疹、アレルギー、発熱、寒気、カルシウムが低くなどがあります。症状が悪くなった急性期や、手術の前に症状を安定させるためにされることが多いです。効果は1週間ぐらいで現れ、1-3ヶ月くらい持続します。
 次が新しい治療薬、補体阻害薬のエクリズマブといいます。MGの中でも抗アセチルコリン受容体抗体が陽性の方のみに使用されます。免疫グロブリン静注療法や血液浄化療法を施行しても効果が不十分な方に使用します。神経終末からアセチルコリンが出てきて筋肉側にある受容体の方にくっつけば良いのですが、アセチルコリン受容体抗体が補体を活性化して筋膜を破壊して筋肉への電気信号が伝わりにくくなります。エグリズマブは補体活性化による筋膜の破壊を阻止する薬剤です。
 このお薬は、最初4回は1週間ごとに点滴しますが、そのあとは2週間ごとに点滴します。3ヶ月後にそのお薬の効果があるかどうかの判断をし、効果があれば継続し、効果がないようですと一旦中止となります。
 このお薬は非常によく効くようではありますが、髄膜炎菌感染症という重大な副作用があります。頭痛、吐き気、嘔吐、発熱という髄膜炎の症状をひき起こします。そのために、投与開始の2週間前までに髄膜炎菌ワクチンの接種をしないといけません。免疫抑制剤を投与されている患者さんの場合は、2回接種が推奨されています。髄膜炎を起こしてしまうと命に関わることにもなりますので、発熱や頭痛や吐き気、嘔吐などの症状があれば、副作用の可能性を疑って、病院を受診していただかないといけません。また軽い副作用としての頭痛、下痢、嘔吐、風邪症状が出ることもあります。
 エグリズマブの効果を調べたREGAIN試験の結果です。MG-ADLによる評価では、26週後において、使用例での平均は非使用例に比べて、約2点の改善がみられました。QMGスコアでも、26週後に、使用例の平均は非使用例に比べ、約3点改善していました。
 次にAchR抗体陽性のMGとMuSK抗体が陽性のMGの違いをお示しします。AchR陽性はMG全体の約85%、MuSK抗体陽性は5~10%です。男女比はそれぞれ1:2、1:3です。AchR抗体陽性の場合は一般的には目の症状から始まって全身型になる方が多いのですが、MuSK抗体陽性の方は発症時より眼筋・球麻痺型が多いです。眼筋型の頻度は、AchR抗体陽性20~40%にくらべMuSK抗体陽性で3%と少ないです。クリーゼの合併症はAchR抗体陽性で10~20%に比べ、MuSK抗体陽性では33%と、クリーゼは起こしやすいということになっています。
 胸腺腫の合併は、AchR抗体陽性で20~30%ですが、Musk抗体陽性では合併しません。自己抗体のIgGサブクラスも、AchR抗体陽性ではIgG1、MuSK抗体陽性ではIgG4と違いがあります。
 筋肉側の神経筋接合部でAchR抗体陽性では補体介在性の破壊がありますがMuSK抗体陽性ではありません。
 治療法も少し違っています。MuSK抗体陽性MGでは坑コリンエステラーゼ薬の効果が一定しません。中には悪くなる方もおられるということで、本来使う量の半分くらいを試してみるということもされているようです。もちろんこの胸腺摘除術は効果がないことが分かっていますから適応はありません。血液浄化療法に関しても、IgGの種類が違いますので、血液浄化療法のうち免疫吸着療法ではIgG4はくっつきにくいのでこの方法は避けられています。エクリズマブも効果はないので、適用ではありません。リツキシマブというB細胞表面に発現しているCD20を標的としたモノクローナル抗体製剤、保険適用外のリツキシマブというお薬が有効と言われています。
 2つの抗体がどちらも陰性のダブルネガティブMGについてお話します。この中にはいろんなパターンがあると思われます。現行のコマーシャルラボで測定するAchR抗体検査では検出が困難なものも含まれます。特殊な検出法では陽性になる可能性があるのですが、結局抗体陰性というところに入ってしまいます。また、抗Lrp4抗体、つまり抗低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質4 抗体はダブルネガティブの方の中のだいたい2~50%、日本の報告では2.2%と言われていますが、そういう新しい抗体も測れるようにはなってきています。 
 またそれはMusk抗体との同時陽性という方も30%ほどおられます。ただ、Lrp抗体は、筋萎縮性側索硬化症や視神経脊髄炎での陽性報告もあります。46才ごろが平均年齢で、胸腺腫の合併はなく、30%ぐらいは過形成胸腺といわれています。
 臨床的には比較的症状は軽く、クリーゼは少ないと言われています。ただ、MuSK抗体の陽性で、かつLRP4抗体も陽性という方は最初から重症例が多いというふうに言われています。治療は基本的にはアセチルコリン受容体抗体陽性の方と一緒ですが、治療的診断を兼ねて血漿浄化療法と血液浄化療法なども考慮されます。
 最後に、新しいタイプの重症筋無力症についてお話しします。ここ数年のことですが、肺ガンなどに免疫チェックポイント阻害剤を使用しますと、免疫関連有害事象として自己免疫疾患をひき起こす方もいます。頻度は多くないですが、MGの症状が出てくる方もおられます。この治療によって出てきたMGは血清クレアチンキナーゼの高値なのが特徴で、筋炎あるいは心筋炎を合併する場合があります。私たちの経験ではMGの方はおられませんが、肺がんを免疫チェックポイント阻害剤で治療した結果、髄膜脳炎を起こした方がいました。最終的にヘルペスウイルス、細菌、真菌、結核菌などの可能性も除外しながら薬剤の有害事象を疑ってステロイドパルス療法を施行し、そちらに関してはよく効きました。
 日常生活で気をつけていただくことについてお話しします。皆さんもうすでに実践されていることだと思いますが、感染症の対策をする、うがいとか手洗いとか、またマスク使用が重要です。あと、なるべく眼の負担や身体の負担を軽くして、疲れたら早めに休む。呑み込みにくいとか噛むのに疲れる時とかは、のどの通りの良い、かつ柔らかいものを食べてください。また着脱のしやすい服装や、楽な姿勢を保つことができる椅子などの家具を選ぶとか、そんなことも必要です。
 これが最後のスライドです。疲れたらとにかく休んで負荷を減らして下さい。感染には注意して下さい。調子が悪い時には、かかりつけの先生にはなるべく具体的にお伝え下さい。たとえば、今まではできていたのに、こんなことができなくなったなど具体的にお伝えすることが大切です。重症筋無力症の研究やお薬の開発は進んでいます、ということを最後にお伝えして講演を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。


筋無力症友の会大阪支部