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Myasthenia Gravis
一般社団法人   全国筋無力症友の会 大阪支部  

医療講演 lecture

  第47回大阪支部総会 医療講演  2017年5月20日

       「重症筋無力症の病態と治療」

                           
                 大阪大学大学院医学系研究科
                             保健学専攻 機能診断科学講座助教
                                    久保田 智哉 先生                                           


 
今日は重症筋無力症の病態と治療ということでお話をさせて頂きます。一番最初に簡単に自己紹介をさせてください。
 私は平成13年に阪大医学部を卒業しまして、それ以降神経内科医としてやってきております。今までに阪大附属病院と大阪厚生年金病院(今のJCHO大阪病院)で神経内科の診療をしてました。そのあと、大学院に進み、大学院を終わってから、平成22年8月よりアメリカに留学しておりました。去年8月に高橋先生のもとに帰ってきたというところです。少しアメリカで感じたこととかも話に盛り込むような形で今日はお話させて頂きますので、お聞き頂けたらと思います。
 お話の内容ですが、まず重症筋無力症とはどういう病気なのか、もう皆さんもご存じの方もいらっしゃるかとは思いますが、基本的なお話も含めてお話をさせて頂きます。
 次に治療法について、最近のトピックスとして2つほど、国際的に発表されたことがあります。1つは胸腺摘除術のことについて、あとはガイドラインのことについて少し触れたいと思います。
 あとは実地の生活上の注意点ですが、ガイドライン等々に触れられていることについて少し説明させて頂きます。

重症筋無力症とは
 重症筋無力症とはどういうものかということですが、3つの大きな特徴のある病気です。1つは、繰り返し運動することで骨格筋の筋力が弱くなっていってしまう。このことを易疲労性という表現をします。2つ目には、日によって症状が変動する。いい日もあれば悪い日もある。こういう日差変動のある病気です。3つ目、一日の中でも、朝起きた時は調子がいいけども夕方になると調子が悪くなる,これは日内変動と呼ばれます。この3つの症状の特徴を持っています。
 部位としては全身のどこに起こってもいいんですけれども、治療等のことを考えて通常、目の症状と全身の症状の2つに分けてだいたい考えます。目の症状であると、たとえばまぶたが勝手に閉じるであるとか、眼球の動きが悪くなって二重に見える、特に初発症状でこういうことを経験される方も多いと思います。次に全身症状として、手足の力が弱くなって少し歩きにくさを感じたり、あとは口の周りの筋肉の問題で喋りにくい、呑み込みにくい、呼吸がしにくい、息がしんどい、こういったものが全身症状としてあげられます。
 そもそも我々が身体を動かすときにどういうふうに動かしているかといいますと、一般的に、脳で動けという指令の神経が始まる。それが脳幹や脊髄というところまで降りてきまして、脊髄のところで2つ目の神経に乗り換えます。動けという指令は1つ目の神経から2つ目の神経を通って筋肉に到達する。この2つ目の神経のところが末梢神経というふうに呼びます。動かしにくいとか疲れ易いとかという症状はこの経路のどこがやられても、起こってもおかしくない症状なのですが、重症筋無力症というのはこのうちの末梢神経と筋肉の繋ぎ目、通常、神経筋接合部というふうに呼んでいるこの黄色の枠で囲ってあるところ、ここが病気の1番の主座であるというふうにいわれています。
 先ほど黄色で囲ったところをより詳しく見たものですが、細く見えているものが筋肉です。この黒い影が末梢神経です。末梢神経からいくつも枝葉に分かれて、少しまるっぽい溜まりのようなものが見えると思いますが、この黄色で囲ってある部分がいわゆる神経と筋肉の繋ぎ目になります。この部分をシナプスというふうな呼び方をします。神経を通って、我々が動けというふうな指令を送ってきた信号というのは、一般に電気信号としてこのあたりまで来ます。電気信号を受けた神経の1番端っこから電気信号を契機として、アセチルコリンという伝達物質が出ます。ですから神経と筋肉はペタッとくっついているわけではなくて、こういう空間を介して神経と筋肉のやり取りが起こる。出し手がアセチルコリンという物質であって、受け手がアセチルコリン受容体という筋肉にあるものです。アセチルコリンがアセチルコリン受容体にくっつくことで動けという指令が最終的に筋肉まで到達するので我々は筋肉を動かせるということです。
 重症筋無力症はどういった病気かというと、筋肉の受け手側のアセチルコリン受容体もしくはそのまわりにある部分、ここに何かトラブルがあって起こる自己免疫性の疾患だというふうにいわれています。自己免疫性の疾患というものは、いったいどういったものかというと、本来は外来の異物、細菌とかウイルスに対して自分を守る仕組みのことを免疫というふうに呼んでいるわけですが、我々にとって大事な免疫の機構がなぜかわからないけれども自分の組織を自分のものじゃない、誤認識して攻撃を始めてしまう病気のこと、これを一般に自己免疫疾患というふうに呼んでいます。
 頻度の多い例でいうと、リウマチもしくは甲状腺の病気でバセドー病とか橋本病、こういったものが頻度の多い自己免疫疾患で、重症筋無力症もその自己免疫疾患の1つです。
 重症筋無力症の発症機序、正式にいいますとどういうことかというと、シナプスにあるアセチルコリン受容体、これに対する自己抗体、抗アセチルコリンレセプター抗体というものが胸腺とか身体のどこかで作られてしまって、受容体にくっついてしまう。このくっつくことで神経から筋肉への伝達が悪くなってうまく筋肉が動かせなくなる、こういった自己免疫疾患であるというふうにいえます。
 つながりが悪いだけではなくて、時に抗アセチルコリンレセプター抗体はアセチルコリン受容体にくっついて補体と呼ばれるものと供応してこの受容体そのものも少し壊してしまう。少しここの形が崩れるような絵になっているのが見えると思いますが、放っておくと壊れてしまうこともあるのでそういう意味では治療が重要だということです。
 ここまでが重症筋無力症の一般的な説明です。
 治療にいく前に少しだけ、ひとつブレークという形でお話させて頂きます。アメリカにいたのは基礎研究者としておりまして、実際に医者として働いていたわけではありません。ですので、どちらかというとアメリカでは患者として病院にかかわることが非常に多かったんですけれども、非常に怖い思いも沢山しました。1つは妻が急性虫垂炎になったんですけれども、もうお腹の中で破れているというのも分かったので、急いで救急に行ったんですが、なかなかみてもらえない。向こうでは病院を守るということが先みたいなんですね。患者さんをみるというよりも病院でトラブルが起こらないようにする。なかなかみてもらえなくて5時間ぐらい待ったあと緊急入院という形になりました。それで6日間ほど入院して治療を受けたんですけども、請求で上がってきたのが信じられないですけど、1400万円。もちろん保険がききましたんで、払ったのはこの額ではないんですが、ちょっと額を見た時にはびっくりするといいますか、21世紀に先進国のアメリカで急性虫垂炎で死にたくないなと思う一方、これだと破産してしまいますし、なかなか厳しい現実だなと目の当たりにしました。日本はいい国だと実感したということです。

<重症筋無力症の治療>
 次に治療というところへ進んでいきたいと思います。ここからちょっと長い話になりますが、いくつかトピックスみたいなものをはさんでいきますので、聞いて頂けたらと思います。
 今、重症筋無力症の主な治療法をざっとあげますとこうなります。薬物療法ではコリンエステラーゼ阻害薬、それからステロイドですね。あと免疫抑制剤、これは点滴になりますけども、免疫グロブリン大量療法。薬物療法以外でいうと、血液浄化療法もしくは血漿交換療法というふうに呼ばれたりします。あとは胸腺摘除術、これのひとつひとつ、追っていきたいと思います。
 まずはコリンエステラーゼ阻害剤、飲まれている方もいらっしゃるかと思います。製品名でいうとメスチノン、マイテラーゼ、ウブレチドと呼ばれるものです。即効性があるんですが、目的としては対症療法で、病気そのものを良くする治療法ではありません。副作用としては、腹痛とか下痢、あと涙が出る、発汗の異常などの症状や、時には不整脈とか筋肉のピクつきなどが生まれてしまう。これが副作用で、時に問題になります。使う場合には、できるだけ最小限に抑えたい。あまり使いすぎると逆に重症な症状のクリーゼというものを起こしてしまうので、もしこのコリンエステラーゼが沢山必要だということであれば、やはり根本治療の方のステロイドとかそういったことの治療を考えなくちゃいけないということになります。
 具体的に次のステロイドですが、基本的には自己免疫疾患なので免疫抑制作用を期待して使用されます。日本だけでなくて、世界的にもこれが1番基本的な根本的な治療薬といわれています。内服療法が一般的ですが、パルス療法という点滴も使います。飲み始めてから効果が実感できるまで約1ヶ月かかることが多いです。使い方はいろいろです。1番最初から大量に飲んで頂くこともありますし、少量からちょっとずつという場合もあります。症状が強い場合には早くコントロールしたいというので、高用量を使うことがあるんですが、逆にその時に初期増悪という、少し症状が不安定になりやすいということがあるので、できれば少量から少しずつ増やす方が安全かなということがいわれています。
 あとは、やはり副作用に注意するということが大事で、よくご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、副作用をざっとあげるだけで結構沢山あります。易感染性、消化性潰瘍、胃が荒れるとか、高脂血症、糖尿病、骨粗鬆症。骨粗鬆症が関連することもありますが大腿骨頭壞死、足の付け根の骨が壊死を起こしてきたり、あとは眠れないとか精神症状起こしたり白内障、緑内障、目の症状が出てくる。あとは満月様顔貌といって、少しお顔が丸くなってしまうといったことがステロイドの副作用としてよくいわれます。
 基本的なスタンスとしては、できるだけ副作用がでないようにしたいということで、投与方法がいろいろ工夫されるんですが、隔日投与でできるだけ少ない量、朝1回。朝1回というのはみなさんの身体の中でステロイドは、もちろん副腎というものがステロイドを作っているんですけども、その副腎のステロイドの濃度は、朝1番が1番高いので、それにあわせて朝1回飲んで頂くことが多いです。
 またこの副作用の予防としては、H2ブロッカー、ガスターとか、プロトンポンプインヒビターと呼ばれるようなもので出来るだけ胃潰瘍とか胃を荒らすのを防ぐ、あと骨粗鬆症の進行を抑えるためにビタミンDであるとかビスフォスフォネートと呼ばれるようなお薬を使ったりします。ですからステロイドを飲み始めるとともにステロイド以外の内服薬がなぜか増えるという点はあると思いますけど、それは副作用を考えてのことということです。
 これが内服で起こることなんですけど、一方ステロイドパルス療法という点滴法は、どちらかというと、今述べたような長期的に出てくる副作用は出にくい。一気に大量に身体の中に入れるので、症状もできるだけ早くおさめる、コントロール下におけるということを期待されています。ただ、同時に、初期増悪というお話を先ほどしましたが、このステロイドパルスでもやはり初期増悪を起こすリスクというのがあります。点滴をした後、良くなるはずなのに何か調子が悪いと。ただこれを乗り越えると比較的早くステロイドの量が減らせたりとか、いい面もあるのでステロイドパルス療法を好んで使われる先生もいらっしゃいます。あとは、かなり大量のステロイドになるので基本的には入院での治療ということになります。
 あとは調子が悪くなる場合にここで書かれている1000rで3日間と書いていますけど、これにあまりしばられずに使われることもあります。例えば半分の量で1日だけして、少し様子をみて初期増悪がなければまた1回やろうか。結構その決まった形ではないんですけれども、大量なステロイドを使うことを通例ステロイドパルス療法というふうな呼び方をしています。
 ステロイドのサポートという形で次に使われるのは免疫抑制剤、作用的なことを考えてカルシニューリンインヒビターといういい方をされます。具体的なお薬の名前をいうと、プログラフ、もしくは、ネオーラルというお薬ですが、日本では保険適用になっているのはこの2剤だけです。この2剤でも保険適用の違いというのがありまして、プログラフの方は、重症筋無力症であればどういう状況でも使える。ただネオーラルの場合は、胸腺摘除術をうけてステロイドの効果が不充分であると、そのサポートの場合に使ってよいということが保険適用になっています。
 あと、免疫抑制剤を使い始めますと、血中濃度を月に1回程度測定することが多いです。特にネオーラルの方です。プログラフの場合は使う量が一律3r以下とかという形で決まっていますので、プログラフであまり血中濃度が高すぎたり、中毒とかの心配はそれほど多くはないんですが、ネオーラルの方は血中濃度を測定して有効域にあるかどうか、もしくはそういった中毒とかで副作用が出てこないかどうか、予防するためにお薬の濃度を測っておく。あとは併用薬剤の影響ですね。今までお薬の量を変えてなかったのに、別の内科の血圧のお薬が変わった、抗生剤が変わった、そういったことでお薬の濃度が変わったりすることもありますので、時々血中濃度を測ることが推奨されています。
 あと今薬の話をしましたけれども、免疫抑制剤に影響を与えてしまうものとしてグレープフルーツジュースを飲むと免疫抑制剤の効きが強くなりすぎてしまう。少し注意が必要です。
 この他にプログラフとネオーラルの違いという点でいうと、副作用の違いがあります。上から、腎障害、耐糖能異常、あとは高血圧、高脂血症、下痢、ここは多かれ少なかれプログラフもネオーラルも出てきます。ただ、ネオーラルの特徴的な副作用としては多毛、少し毛が濃くなるであるとか、あとは歯肉が厚くなって肥厚してくるということがあります。プログラフ特有のということではないですけど、筋のこわばりというようなことはプログラフの方が起こりやすいということがいわれています。
 以上が内服のお薬の説明です。
 次に免疫グロブリン大量療法。免疫グロブリンというのは何かというと、ヒトの血液から抽出した免疫グロブリンと呼ばれるタンパク質、外敵を壊すための大事なタンパク質だけを大量にとってきて、それをお薬として使う。使い方は、400r/s、体重によって量が変わるんですけれども、それを5日間点滴する。ですからやはりこちらも、通常は入院でされることの方が多い。
 実際には、この治療法はどういうふうに効いているかというのははっきり分かっていません。効き方の機序というのが不明な点があります。ただ、免疫を調整するであるとか、抗アセチルコリンレセプター抗体をこれに吸着させて効かなくしているとか、いろいろな説がいわれています。
 次に紹介する血液浄化療法と同様に、症状が悪くなられた時、非常に重症例でうまくコントロールできない時、これに対して緊急避難的に用いられる急性期の治療法といわれています。ですから根治療法ではない。継続してこれでコントロールするというのも、治験等々で試されてはいますが、今現在もうまくはいっていないという状態です。ですから症状が悪くなった時に収めるというそういう使い方をする治療法です。
 効果は次に紹介する血液浄化療法と同様ではあるんですけれども、長所として簡単に出来る点滴ですので、特別な病院でなくてもできる。一方血液浄化療法というのは、ある程度透析に近いようなものになりますので、特別な装置が必要であることと、あとは腎臓内科とかそれなりの専門家の協力を仰がないといけないというところがあります。短所としては、何をもっても血液製剤であるということです。人によっては、あまりいい気がしないものである場合もありますので、同意書とかを頂かないといけない、そういったお薬になります。
 今の続きで少しでていた血液浄化療法、血漿交換療法というものです。これは透析のような形で血液中の抗体を物理的に除去する目的で行われます。血液を、1回カテーテルをいれて血液のポンプで血液を出してきて、こういった膜状の透析膜を通して、害を及ぼす抗体などを、出来るだけ除去をして身体に戻す。カテーテルを入れますので、痛いですし、これだけの装置が必要になりますので、対応できる施設がある程度限られます。治療法としては、先程お話ししたような、調子が悪い時の急性期の治療で、根本的治療法ではありません。
 血液浄化療法と先ほどの免疫グロブリン大量療法の効果について優劣が比べられたことがあるんですけども、これはいずれも大差がないという結果がでています。
 ただ、抗アセチルコリンレセプター抗体を中心にお話はしていますが、別の自己抗体を持っている重症筋無力症の方もいらっしゃって、抗MuSK抗体、この場合だと血液浄化療法の方が効きがいいという報告もあります。
 おおまかにいうと3種類ぐらいの方法があるとなっています。
 治療法の最後にいきますが、胸腺摘除術。もともとこれが行われてきた経緯というのは、1910年代ぐらいに重症筋無力症の方にしてみると、症状がよくなったというところから始まって徐々に症例が増えて、効くようだというところから始まっている治療法です。また抗アセチルコリンレセプター抗体陽性の患者さんの約75%に胸腺の異常が合併するというのが統計的にとられてから、やっぱり病気に関連して胸腺が何かをしているのだということが考えられています。これを外科的に摘除することで効果があるということで、今まで続けてこられています。効果は、すぐに出るわけではなくて、手術後半年から1年ぐらいの間に徐々に長期効果というのがでてきます。ただ手術後1ヶ月ぐらいは少し症状が不安定になることがあるので注意が必要といわれています。
 先ほど経験的に続けられてきたというふうに申しましたけども、やはり効かないとかお奨めできないという患者さんのケースもありまして、一般に胸腺摘除術をするかしないか、お奨めする人、お奨めできない人という形で、以下のように分かれています。胸腺の異常の中で胸腺腫、腫瘍としてある方は、これは絶対適用として手術をお奨めしています。とった方がいい。あとは、手術をしてもいい、手術をすることを考えていただきたい、というのは、全身型の重症筋無力症の方。症状で眼筋型でも、診断の際にいろいろな検査を受けられることがあると思います。電気生理検査であるとか、いろんな疲労検査をされることがあると思いますけども、全身の症状がのちのち出てきそうだ、といった方も含めて全身型の重症筋無力症であれば手術を奨めるという方針になっています。逆にお奨めできない方は、60才以上で、もうすでにCTとかでみても胸腺がみえない、成人になるとみなさん萎縮をしていく方向にはなるんですけれども、かなり萎縮が進んでいる場合、この場合はお奨めできないということです。
 あとは、抗体価が高くても症状がない、もしくは坑コリンエステラーゼ阻害薬である程度コントロールがついているということであれば、手術を受けるリスクをとって頂く方がいいかどうか分からない、ということでお奨めはあまりしない場合があると思います。あとは抗MuSK抗体という、抗アセチルコリンレセプター抗体と別の抗体が陽性の方。あとお子さんには手術をお奨めしない。これも経験的に今ガイドラインでいわれているということです。
 近年になって胸腺摘除術については非常に大事な報告が出まして、今まで長期的効果として以下のことがいわれていた、クリーゼなどの重症化を防ぐ、薬の減量効果があるんじゃないか、いわれていたというレベルなんですけれども、MGTXスタディという非常に大きな研究がなされました。実際に均等に患者さんを割り付けて、手術をした方と手術をしなかった方で差が出るのか。要するに胸腺摘除術はメリットがあるのかどうかをきっちり調べてみようというふうになされた研究です。
 スタートが確か2014年くらいで、第1報目が2016年、去年に出ています。3年ぐらいの経過をみた段階での結果なんですが、胸腺腫を合併されてない、要するに胸腺の過形成とかを持ってらっしゃる重症筋無力症の患者さんに対して胸腺摘除術をすることで良かった効果、3つ挙げられています。1つはQMGスコアという、これは医者が診察でつけるスコアなんですけど、重症度が軽減できる。2つ目には、ステロイド、治療後のステロイドの投与量が少なく抑えることができる。3つ目としては、これは患者さんのQOLを測るそういった質問紙等で得られるものですけれども、やはり実際に治療による副作用とか症状が抑えられて、QOLの向上がもたらすことができたというのが患者さんからお聞きできる声として確認できた。これはいずれも統計的に有意に出たということで、この結果をもって胸腺摘除術の効果がはっきりと証拠として出たということになります。ですので、今後ガイドライン等でこの胸腺摘除術の位置どりが変わってくる可能性があるということが考えられます。
 この研究自体は3年で今評価をされているんですが、7年後、要するに中長期的にも効果をみようということがされていますので、おそらく続報がこのあと4〜5年の間に出てくる。結果として中長期的にも良かったのかどうか、続報が出てくるということが考えられます。
 今までのお話をざっとまとめましたけれども、薬物療法、コリンエステラーゼ阻害薬、これは対症療法であるということ。ステロイド、これが根本治療の今もって主流であるということと、免疫抑制剤はそれのサポートなんですが、強めの根本治療になります。あと免疫グロブリン大量療法、あと血漿交換療法、これは緊急時の急性期の治療である。胸腺摘除術に関しては長期的安定的な治療を目指す上でひとつエビデンスが出てきているということです。
 いままでの治療法は皆様も多かれ少なかれ馴染みがあるものかと思いますが、新しい治療法についても現在開発や治験などが進んでいます。一般に分子標的薬と呼ばれるものです。重症筋無力症の免疫の機構にあわせて開発が進んでいるものです。この図は、重症筋無力症の起こり方をリンパ球に特化して示している図です。自己免疫に関わるリンパ球にはT細胞と呼ばれるものと、B細胞と呼ばれるものが2種類あります。実際に抗アセチルコリンレセプター抗体を作るのはB細胞なんですけれども、物事の起こりは、元々我々の身体のどこかで自分の身体のものに対する非自己、要するに悪いものだという誤解を起こすT細胞が出てくる。このT細胞が自分の身体なのに、これは外敵だから排除しなきゃいけないというふうな指令をいろんなところに出します。その指令が流れていって最終的にB細胞がそれに対する抗体を作っていく。この作られた抗体はその標的である神経筋接合部のアセチルコリンレセプターというところにくっついてこの赤丸、補体と呼ばれるもの、補体と一緒になってここを攻撃し始める。これがリンパ球の視点に立った場合の重症筋無力症の起こり方です。
 この考え方を辿ればこのB細胞を抑えてやればいいんじゃないか。これを強く働かなくしてやればいいんじゃないかということでひとつ可能性がいわれているのがリツキシマブと呼ばれる抗CD20抗体というふうにいわれますけども、CD20というのがヒトのB細胞にだけ特別発現しているものなんですね。なのでこれの抗体を作ってあげて、このB細胞の働きを抑えてやればいけるんじゃないかということで、これはアメリカの方で治験が進んでいます。まだちょっと結果としては出てないですが、理屈を考えればまあいい結果が出てもおかしくはないというものです。
 もう1つは、抗体ができた後、抗体だけではここの部分は壊せなくって、補体というこの赤丸の力がどうしても必要になります。ではこの補体を抑えてやればいいんじゃないかということで、補体の1つ、C5と呼ばれるものですけど、これに対する抗体として開発されているのがエクリズマブと呼ばれるものです。このエクリズマブの治験は日本も、阪大含めて、治験に参加しておりました。第3相の治験が一応終了しまして、今オープン、もう実薬の方に移行して、まだ進んでいるところですけれども、今まで比較したところでは、主要項目では効果が証明はできなかったという報告が出てきています。ただ、サブ解析といって副次的な効果をみるところで、エクリズマブの効果がいくつか確認できているので、まあポジティブな結果も複数出てきているということです。最終的にちょっと認可がおりるのか、どうか分からないですけど、ポジティブな印象を持っているというのが今の状況です。こういった新しい治療法があるということが1つあります。
 もう一つ、国際的なガイドラインというものの策定の流れが最近になって出てきています。というのは、国によって保険の認められている薬とかに少し差があって、実際に今申し上げたようにエクリズマブとかは世界的に治験が行われているんですけど、なかなかこの統一が難しい面というのもあったので、それをあわせようじゃないかという流れがあります。我が国の最新のガイドラインというのは『重症筋無力症診療ガイドライン2014』、この2014年に発表されたものが最新になっています。MGFAというアメリカの重症筋無力症の協会が主導になって日本、オランダその他各国から15人の専門医を呼んで実際に国際的なガイドラインを作ってみようという流れが出てきました。2014年から開始されて、第1報目2016年、去年に発表されています。日本からは元九州大学の村井先生が参加されています。これで分かったのは、日本のガイドラインというのはあまり国際的にもはずれていないということが1つ。例えば治療目標としては我が国ではできるだけ症状を軽い状態、ほとんど無症状かもしくはごく軽微な症状があるところまでにもっていく、それをステロイド5mg/日、隔日に飲んでらっしゃったら10r隔日投与ということになるんですが、これをまずは第一の目標にしましょうというのが本邦の目標になっているんですが、海外もこの目標は変わっていない。ただ海外の方はそれに加えて副作用をできるだけ少なくするようにという文言がついていたり、そういう違いはあるんですけども、大枠はあまり変わらないという結果が分かりました。
 あとは、免疫抑制剤に関してはどうしてもその保険適用の違いがあるので、日本で保険適用の通ってない薬を第一選択においている国などもあります。このあたりの違いというのはありました。ただ、やはりステロイドは第一の主要な根治療法だろうと、免疫抑制剤はそのステロイドを減らすための方法として位置付けようという考え方はあまり変わりがないということです。
 1番違いがもしあるとするならば、使用を注意すべき薬です。外来で、この薬は避けてください、例えばこの抗生剤は避けてくださいとか、いろいろなお話を聞かれた方もいらっしゃるかとは思います。実際に海外でもこういった薬は気をつけましょうという表とかがでます。日本の場合は精神安定剤とか睡眠導入剤これに対しては非常に気をつけるように注意が喚起されていますが、海外ではこれらは表記がありません。彼らはあまり気にせずに睡眠導入剤を使っているようだというのが分かっています。ただ、理屈だけを考えるとやはり呼吸の症状が悪いと睡眠導入剤を使うのはどうかなという、懸念はあります。ただ日本でいわれているよりはもう少し重症筋無力症の患者さんに使う睡眠導入剤というのは見直してもいいんじゃないかというふうに考えておられる先生もいらっしゃるようです。このあたりは、のちのち先ほどの胸腺のことも含めてガイドラインが新しく作成されるようなことがあれば、少し変わってくるかもしれません。
 以上が治療のことです。
 2つ目のブレークということになりますが、シカゴというのはものすごく寒いところです。正月の写真なんですけど、ここがミシガン湖なんですが、これミシガン湖が凍っていまして、ここに雪が積もっています。だいたい−20℃から−40℃ぐらいに、冬はなる日が必ず出てくると。非常に厳しい世界だったんで、冬場はあまり出たくないですし、うつにもなりそうになるんですが、こういった温度とかはかなり病気のことを考えると非常に大事で、次にお話する生活上の注意点という点に関して、少しそのへんに触れていきたいと思います。

<重症筋無力症における生活上の注意>
 生活上の注意点ですね。参考にしているのはガイドラインからとっています。5つほど分けてトピックスを持ってきました。生活強度、飲酒・喫煙の問題、ワクチン、妊娠・出産、それから歯の治療について、なにか制限があるかどうかということですね。
 1つ目ですけども、生活強度、症状が安定してさえいれば日常生活には制限はありません、というのが一般的な考え方です。ただし、疲れすぎはやっぱりよくないですよというので、休息・休養はしっかりとるように、無茶はしないで頂きたいということです。
 これは今日も含めてなんですけども、体温上昇、暑くなると身体の調子が悪くなる。気のせいではないんです。免疫の病気で重症筋無力症以外にも多発性硬化症という病気がありますが、そちらの患者さんでもやはり体温上昇で悪くなる。これは、免疫というよりも、電気シグナルとかの関与で起こっているんじゃないかというふうにはいわれていますが、できるだけ涼しく快適な状況は保って頂きたい。炎天下の外出とか入浴中ですね、長風呂になって調子が悪くなるようであれば、その温度であるとか入浴時間には気を配って頂きたいと思います。
 先般、28度の部屋温度に根拠があるかどうかという話がでていましたけれども、過度の省エネとか暑さ我慢というのは患者さんにはあまりお奨めできないなあというのが個人的な意見としてあります。
 あと今度冬場になると感染予防というのがやっぱり大事になります。手洗いとかうがい、あとインフルエンザなどの流行期などは人混みを避けるということが大事になります。インフルエンザ等々のワクチンについてはこのあと2つ目ぐらいにもう少し触れます。
 以上が生活強度ですね。次に飲酒・喫煙の問題です。あまり嫌われるようなことはいいたくないんですが、飲酒については特別な研究結果がありません。だからいいも悪いも根拠がありません。ただ気になるのは使われているお薬、例えば免疫抑制剤等々に対する影響ですね。やはりそういった影響を考えられる時には少し控えめにして頂きたいというのが飲酒に対してのコメントです。一方タバコについては、実際にニコチン自体が重症筋無力症を悪くするという報告があります。過去に起こっていますので、もし愛煙家の方がいらっしゃったらですけども、申し訳ないですけれども、お身体のことを考えると、禁煙は強くお奨めしたいというのがあります。
 次にワクチンです。一般にインフルエンザワクチンを打つことで重症筋無力症が悪くなるかどうか、これをみられている報告というのは過去にもあるんですが、あまりはっきりインフルエンザワクチンを打っちゃダメだというものは今までにありません。ただ、打って意味があるのかというところですね。それに関しても、研究はないんですが、理屈だけを考えるとステロイドと免疫抑制剤であまり免疫が働かないようにしているんだから、ワクチンがあまり効かないんじゃないかという懸念で、お奨めされない先生も多いと思います。一方、アメリカでいうと、免疫抑制状態の方に強くお奨めすると、インフルエンザワクチンを逆に打ってくれというふうに推奨している部分があります。近年になって肺炎球菌ワクチンなども出てきていますが、これは本邦でもやはり免疫抑制状態の方には打って欲しいということがいわれていますので、基本的にはインフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンなどは気にされる方は積極的に打って頂いた方がいいのではなかろうかというふうに思っています。
 ただいずれの場合でも生ワクチンは絶対に避けてください。生ワクチンというのは、一般にお子さんとかで使われるポリオのワクチンであったりとか、風疹ワクチンであったりとか、あの類が生ワクチンです。一般に成人の方で使われているインフルエンザワクチンとか肺炎球菌ワクチン、この2つに関しては少なくとも不活化ワクチンですので使えるということです。
 次に妊娠・出産についてです。これは日本でのデータというのはあまりはっきりないんですが、欧米のものを元にすると、妊娠・出産で重症筋無力症の症状がどう影響受けたか、一定の見解がありません。数をみてみると、良くなった、悪くなった、あまり変わらなかったそれぞれ3分の1ずつになってしまって、特にどういう影響を与えているかというのははっきり言えるという結果が出ておりません。ただ一般に免疫のことを考えると、言われていることが妊娠の初期は症状が悪くなる可能性の方が高い。中期後期になると、胎児に対する免疫寛容という状態が出てきますので、そのこともあって安定期に入ります。重症筋無力症の症状も安定するんではなかろうかと。出産後3ヶ月になると、出産をすることで免疫の状態が元にもどってくるので、増悪する。こういう流れが一般にいわれています。
 筋肉が疲れやすいから出産の方法ですね、いろいろ産婦人科の先生とも議論になる場合はあるんですが、一般的には重症筋無力症だからといって帝王切開ありきではない。通常の分娩をまずは目指すべきであって帝王切開等々に関しては産科的な問題で判断をしてもらう方がいいだろうというのが神経内科側の考えとしてあります。ただやはり初産とかであると長い出産とかになりますので、どうしても疲れてしまって、吸引分娩等々必要になるということがあり得ます。はっきりとしたエビデンスといいますか結果はないんですけれども、その時のことを考えて例えばステロイドの筋肉注射をしておくとか、そういったことをされている先生もいらっしゃるということはお聞きします。要するに出産にいく前ですね、もう陣痛が始まっているという状態で、ちょっと長丁場になりそうだということであれば、重症筋無力症の状態をある程度の時間を持ち上げるためにステロイドの筋肉注射とかをされる先生はいらっしゃるようです。ただこれもはっきりとした方針というのはありません。
 あと、いわれることは子供に遺伝はしないということですね。ただ、お母さん、患者さんのお母さんから生まれた赤ちゃんの出生時に一時的に筋無力症状が出ているという場合が10%〜20%ぐらいあります。これはお母さんからの抗体が移行しているんじゃないかということもいわれていますが、それをもって生まれてきたお子さんが疾患であるということはかなり少ないというか、まずないというふうにいえます。ただ、一過性の筋無力症状が時に酷い場合があるので、生まれたあとのお子さんの管理というのは注意をしなきゃいけない場合も中にはあります。
 最後にいきますが、歯科治療に関してです。重症筋無力症の症状が安定していればまずまず問題ありません。ただ、ステロイドとか免疫抑制剤を飲まれているような場合には、やはり頭に近いところの神経とか血管に近い部分の処置ですので、処置後の感染ということに関しては注意をしていただきたい。あと他に気になることとしては、ステロイドを飲まれている場合に、少し前のお話であったかと思うんですが、骨粗鬆症の予防としてビスホスホネート剤というものを飲まれている場合があります。これは病気に関連することではなくて、ビスホスホネート剤そのものに関する副作用として顎の骨が壊死をおこしたり、骨髄炎を起こすという副作用が知られています。ですのでこれを飲まれているという状況下で歯を触ることを嫌うという場合が考えられます。その場合には可能であれば少し休薬をして、1ヶ月なり2ヶ月なりおいて歯科治療をされるという手もあるんじゃないか、と言われています。
 だいたい以上が私の持ってきた話のおおまかなことなんですが、一応本日のまとめです。
 重症筋無力症とはどういう病気かいいますと、神経筋接合部を標的とした自己免疫疾患であるということ。治療法についてはまとめますと、対症療法、根本治療、急性期治療とそれぞれの役割があります。新しいエビデンスが出てきて胸腺摘除術の重要性というのが見直されてきているという点があります。あとエクリズマブも含めて新しい治療法の開発が進んでいるということは朗報ではないかなというふうに思います。これからの注意点として、有り体になりますが夏は暑さに対する対処と注意、それから冬は感染、ワクチンの事も含めて注意をして頂きたいということ、最後に飲酒とか喫煙、妊娠・出産、歯の治療のことについて少しコメントさせて頂きました。
 以上です。ご静聴ありがとうございました。


筋無力症友の会大阪支部